皆さんはビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)という言葉をご存知でしょうか?
デューデリジェンスという単語を日本語に訳すと、『当然の努力』となります。
ビジネス界でも、例えばM&A(合併と買収)の様な、企業の経営戦略過程において、ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)が非常に大切な役割を担ってきます。
そこで今回は、ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)の方法と役割について、具体例を紹介しながら詳しく解説します。
ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)とは
ビジネスデューデリジェンスとは、一言でいうと企業のビジネスモデルの把握や、経営に直結する内容の評価及びシナジー効果の分析など、経営統合に関する危険性や評価の調査を行うことです。
例えばサービスや商品、これらの経営に関するマーケティングや営業ビジネスモデル、買収や合併のケースは、自社への影響やシナジー性も分析することができるでしょう。
ですので、ビジネスデューデリジェンスは買い手企業独自で行うことが多ですが、大型投資となるとリスクも大きくなってしまいますので、外部の経営コンサルティングに委託することもあります。
外部の経営コンサルティングに委託すると、競合内でのポジション、バリューチェーン、業界の市場傾向なども調査できます。さらに、客観的に見た合併や投資における、危険性判定もしてくれるのが強みです。
ですので、大規模な経営戦略を実行する場合であればあるほど、企業は外部の経営コンサルティングなどに、委託するケースが多いといえます。
現代のM&Aの案件増加に伴い、ビジネスデューデリジェンスの需要は更に増えています。
ビジネスデューデリジェンスでは、会計管理や質的情報、専門家インタビューなどの外部リソースなどの情報も判断材料として取り込みます。
そして、調査対象の企業が持つ将来の可能性と危険性について把握し、経営戦略のプロバビリティーを解析することができます。
例えば、M&A取引実行段階でのビジネスデューデリジェンスの具体的な作業工程は、コマーシャルデューデリジェンスと、オペレーショナルデューデリジェンスの2つに大きく分類されます。
また、顧客と対象企業の間に予測される相乗効果や不利益に関しても、その解析および数量化をサポートしてくれます。
さらに企業の機運の高まりと選択により、企業内部の買収や売却を行う案件に関しても、企業存続上の視点からの解析および、不足する資産を補填するためのコスト定量化をサポートしてくれます。
どのようなビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)があるのか
ここからは、どのようなビジネスデューデリジェンスの種類があるのか、種類ごとに解説していきます。
コマーシャルデューデリジェンス
コマーシャルデューデリジェンスとは、M&Aの調査対象企業周辺の外部環境が、企業に与える効果の解析や、マーケット状況や競合状況、そしてクライアント傾向を解析し、企業ストラテジーで見込まれている仮定内容の有効性の確認することができる解析方法です。
さらにコマーシャルデューデリジェンス、推定される相乗効果の把握や、売却や買収後に推定される危険性、および期待値の把握も対象としています。
なお、コマーシャルデューデリジェンスは、外部環境分析と呼ばれる場合もあります。
外部環境分析は、競合企業との相対的解析や対象企業とのクライアント属性解析のために、限定的領域ではありますが、対象企業の内部環境分析も必要となる点についても気をつけておきましょう。
マーケットコンディション
マーケットコンディションとは、対象企業の属する業界におけるマーケット推移や傾向、今後の成長方針が対象企業の将来性に、どのような影響を与えるかなどの検討を行う方法です。
競合環境
競合環境とは競合他社のメンバー、事業モデル、共有傾向、経営戦略や新規参入会社の動きについて検討を行う方法です。
また、数量面での比較などをしながら、対象企業の配置や成功要素、およびその継続性も合わせて検討して企業に反映します。
クライアント動向
クライアント動向とは、クライアントが対象企業やその商品、サービスなどを購入する契機とその変移を把握し、対象企業が変移するクライアント需要を抑えているかなどの検討を行う方法です。
オペレーショナルデューデリジェンス
オペレーショナルデューデリジェンスとは、ビジネス価値査定や商談に影響を及ぼす戦略上の危険性や、合併や買収時、売却後に予想される費用減少余地があるかどうかを解析する方法です。
またそれらに対する妨害要素や危険性を早期にピックアップし、その費用ストラテジーに対する合理性を解析することもできます。
オペレーショナルデューデリジェンスの主な解析項目は以下の通りです。
- 対象企業の流通および付加価値連鎖、経営戦略モデルを、企業内の職務フローと照会した、経営資源のポジション状況の妥当性
- 経営の業績管理指標の妥当性、および業績管理指標の定期的なモニタリングと、スピーディーな経営改善
- 商品生産過程のアベイラビリティや、効率化
- 経営戦略達成のための製造スキル強化、追加投資のニーズ
- 経営戦略期間中の企業成長を支える構造、人的戦略
- 合併時や買収後に必要となる追加出費の詳細
ビジネスデューデリジェンスの方法
ビジネスデューデリジェンスの方法は、大きく分けると以下の2つに分けることができます。
・内部環境分析
・外部環境分析
ビジネスデューデリジェンスを始める上で大切となってくるのが、フレームワークです。ここでは、その種類などついて解説していきます。
フレームワークの種類
主なフレームワークとして有名なのは、以下の4つ種類です。
①VRIOフレームワーク
②バリューチェーンモデル
③PEST分析
④5フォース分析
それぞれのフレームワークについて、内部環境分析と外部環境分析に分けて、わかりやすく解説します。
内部環境分析
ビジネスデューデリジェンスのにおいて、内部分析にあたるのは、①VRIOフレームワークと②バリューチェーンモデルです。
①VRIOフレームワークとは
VRIOフレームワークとは、経済価値・希少性・模倣困難性・組織を英訳した単語の頭文字を、取って組みあわせたものです。
これらのポイントに則ってデューデリジェンスを行うことで、対象企業の強みを理解することができます。
ここでわかった要素を、十分に発揮できるようにビジネスデューデリジェンスを進めていくことが重要です。
②バリューチェーンモデルとは
価値を創造するための活動である②バリューチェーンモデルは、支援活動と主要活動の2種類に分けられます。
それぞれが、巧みに合致することにより、相乗効果が期待できるという考え方に基づいたデューデリジェンスを進めることが大切です。
外部環境分析
ビジネスデューデリジェンスにおいて、外部分析にあたるのが、③PEST分析と④5フォース分析です。
③PEST分析とは
③PEST分析とは、政治的要因・経済的要因・社会的要因・技術的要因を英訳した単語の頭文字を、取って組みあわせたものです。
PEST分析は、ビジネスデューデリジェンスを行う際に、前提となるフレームワークのため、非常に重要な分析となります。
さまざまな観点から、対象企業の分析を行うことで、実行予定のビジネスデューデリジェンスに穴がないか確認することができます。
④5フォース分析とは
④5フォース分析の5フォースとは、新規参入・競合・代用品・提供者・購買者の5つのことです。
これらの5つの項目は、組織が安定した収益を出し続けるために、そして新しいメリットを創り出すために、必要とされている項目です。
ビジネスデューデリジェンスにおいて、対象組織の経営の状況を理解するために大切な要素となります。
ビジネスデューデリジェンスの注意点
ビジネスデューデリジェンスを実施するタイミングを欠かさない
ビジネスデューデリジェンスが行われるタイミングは、基本的に契約に合意して締結された後で、さらに最終内容確認に移行する前に行われるのが典型的です。
時期が早すぎれば、根も葉もない噂が流れて、スタッフやクライアントを動揺させてしまう危険性があります。
ですが時期が遅すぎても、別の競合企業によって買収されてしまうリスクもあるので、最適な時期を見計らうことが重要です。
事前にちゃんと計画を立てて大切なポイントを絞る
ビジネスデューデリジェンスにおいて、用途を明確にせず無闇に調査を進めることは、コストや時間の無駄遣いにつながりかねません。
ビジネスデューデリジェンスは限られた期間の内で、不完全な情報群の中から、有益な情報を選択しなければりません。
事前にちゃんと周囲の有益な情報をリサーチすることによって、どのビジネスデューデリジェンスを実施するのがベストか、優先順位をつけ、計画を立てて調査することが大切です。
外部アドバイザーを上手く活用する
税理士や公認会計士を顧問として雇ってビジネスデューデリジェンスを行ってもらう場合、企業の内情を知っているが故に、大事なポイントまで踏み込めない場合もありえます。
ですので、ビジネスデューデリジェンスを委託するのであれば、企業の内情を知らない外部の専門家から客観的に調査してもらった方が、調査結果の信憑性も高いといえます。
また、現在の解析データと問題点の提示はもちろんのこと、合併や統合後の経営ビジネス展開を見据えた相談役の方がいれば、なお信憑性の高い調査報告が期待できるでしょう。
重要性が高まるビジネスデューデリジェンスについて
現在このコロナショックの最中、もしとある企業が倒産の危機に直面しているのであれば、経営を圧迫している原因は過剰な債務なのか、収益力の低迷によるものなのかを各自見極める必要があります。
特に、粉飾決算などの違法行為によって業績事実が不正な場合は、ビジネス再生の第一歩として重要なのが、ビジネスデューデリジェンスによる的確な経営状態の把握です。
例えば、ビジネスデューデリジェンスによって、対象のビジネス市場環境を確認すれば、危機的状況に陥っているのは自社だけなのか、それとも業界全体が危機に瀕しているのかを理解することができます。
つまり、事実に基づいたビジネスデューデリジェンスを行うことによって、存続させるべきビジネスの優先順位をつけることができれば、経営転換などの対策を行なうことも可能になってくるのです。
まとめ:ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)を有効活用して企業をさらに成長させていく
ここまで解説してきたように、ビジネスデューデリジェンスの重要性が日々高まってきているため、企業内での意思決定においてビジネスデューデリジェンスが、欠かすことのできないものとなってきています。
さらにビジネスデューデリジェンスを行うことにより、対象企業のありのままの資産状態や収益力を知ることができるだけではなく、合併や買収後にいかにして相乗効果を発揮できるのかを、イメージすることができるのも重要な役割の一つです。
しかし完璧に対象企業を独自に調査することは不可能であり、下手をすると費用と時間を無駄に浪費してしまう可能性があるため、それらのリスクについては常に念頭に置いた上で、ビジネスデューデリジェンスの実施を検討する必要があります。
つまり、いかにして明確に調査ポイントを見つけ、限られた時間の中で有意義な調査結果を導き出すことができるかが、ビジネスデューデリジェンスを行う上で最も重要なことだといえるでしょう。