奨学金利用者のうち、返済や延滞のリスクについて「きちんと理解していないまま借りた人」が4割を超えているというデータがあります。
今回は、2017年に「東洋経済オンライン」が公表した「大学別延滞率ランキング」をもとに、奨学金返済の現状や今後についてまとめました。
奨学金の返済が難しくなる原因には、雇用環境の変化も関係しているようです。
延滞するとどうなるのか、返済が困難になったときの対処法も併せて解説していきます。
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奨学金の延滞率平均は1.3%
大学の奨学金の延滞率は平均1.3%。大学別延滞率ランキングワースト1位の至誠館大学は9.93%で、10人に1人が延滞している計算になります。
この集計は、奨学金貸与終了者のうち、3ヶ月以上滞納している人が対象。うっかり口座の残高不足だったというような理由ではなく、滞納者には返したくても返せない重大な原因があるといえます。
奨学金の延滞額は866億円
日本学生支援機構によると、平成28年度末時点の奨学金の延滞額は、約866億円にのぼると公表しています。
延滞者が増加しているため、給付型奨学金の制度を積極的に導入したり、「減額返還制度」や「返還期限猶予制度」などの救済措置を設ける取り組みを行っています。
大学別の延滞率を公開しても、奨学金は学生個人と日本学生支援機構との契約であり、延滞は卒業後の問題なので、大学側が改善措置を取るのはなかなか難しいようです。
参考:JASSO『返還金の回収状況及び平成28年度業務実績の評価について』
大学別奨学金の延滞率ランキング
2017年日本学生支援機構のホームページ上で、各学校の奨学金延滞率の検索ができるようになりました。
当初は、学校別に順位を発表する予定でしたが「不当な順列化につながる」という大学側の反発があり、個別で検索しなければ延滞率を閲覧できないようなシステムに。
そこで、『東洋経済オンライン』編集部が独自に集計し、大学別にランキング付けしたものを公開しました。
公開したデータは、平26年度末までの5年間に貸与終了・返還がスタートした利用者の中で、平成27年度末時点で3ヶ月以上の延滞をしている人を対象に算出しています。
大学別奨学金滞納率ワースト10
順位 | 学校名 | 延滞率 | 貸与終了者数 | 3ヶ月以上滞納者数 |
1 | 至誠館大学(山口) | 9.93% | 151 | 15 |
2 | 鈴鹿大学(三重) | 7.32% | 205 | 15 |
3 | 東大阪大学(大阪) | 7.28% | 261 | 19 |
4 | 沖縄大学(沖縄) | 6.66% | 1,651 | 110 |
5 | 芦屋大学(兵庫) | 6.45% | 310 | 20 |
6 | 日本経済大学(福岡) | 5.52% | 1378 | 76 |
7 | サイバー大学(福岡) | 5.41% | 74 | 4 |
8 | 太成学院大学(大阪) | 4.85% | 1,134 | 55 |
9 | 愛知文教大学(愛知) | 4.84% | 62 | 3 |
10 | 四日市大学(三重) | 4.83% | 352 | 17 |
参照:東洋経済オンライン『独自集計!全大学「奨学金延滞率」ランキング』2017/04/20
1位の至誠館大学の9.93%は飛び抜けて高く、2位以下で延滞率5%以上の学校は7校。偏差値の高さや土地柄も何か関係しているのかもしれません。
なぜ奨学金を延滞してしまうのか
日本学生支援機構が返還できない事情についてアンケートを行ったところ、最も多い理由は『本人の低所得』で、全体の6割を占めています。
失業などで収入が減ってしまった、家計の支出が増えた、入院・事故にあったことなどが延滞のきっかけになるようです。
新卒社会人で1人暮らしの場合、毎月1万5千円の返済でも大きな負担となるため、支払いきれなくなることが増えています。
続いて多い理由が『親の経済困難』で、子供が親へ仕送りなどの経済的支援を行っているために、返済が難しくなるケースです。
卒業後、順調に返済していても、両親の失業や病気、介護など、予測できない突然の支出により、奨学金を延滞してしまいます。
労働者福祉中央協議会の調査(2016年)によると、34歳以下の奨学金制度利用者のうち、リスクを十分に理解すること無く借りている人が4割を超えていることが分かりました。
また、日本学生支援機構の調査(2016年)では、そもそも「奨学金に義務があると知らなかった」という回答が4.4%も。
返済や延滞のリスクを知らずに、なんとなく「みんな進学しているから」「みんな借りているから」という理由だけで奨学金を利用するのは、非常に危険といえます。
参考:労働者福祉中央協議会『奨学金に関するアンケート結果』2016/2/29
奨学金で自己破産の連鎖が問題に
朝日新聞デジタルによると、奨学金がからむ自己破産(奨学金破産)が、2018年までの5年間で延べ1万5千人にのぼることを明らかにしました。
奨学金を返済できず、自己破産してしまう背景には、非正規雇用の増加が影響していると考えられています。
現在、雇用の4割近くは非正規職で年収は300万円以下。卒業後返済できると思っていても、収入が上がらないため返済に行き詰まってしまいます。
奨学金を借りた本人が自己破産した場合、保証人や連帯保証人に返済義務が生じます。本人は返済を免れても、親や親戚が代わりに返済しなければいけません。
突然数百万円の借金を押し付けられても返済することができず、連帯保証人までも自己破産する「連鎖」が問題となっています。
元々、家計の経済困難が理由で奨学金を利用しているので、親の返済能力も無いに等しいのです。
参照:『奨学金破産、過去5年で延べ1万5千人 親子連鎖広がる』朝日新聞デジタル 2018/2/12
奨学金を延滞するとどうなる?
奨学金を延滞すると、延滞金の発生・ブラックリスト入り・連帯保証人への連絡・一括請求・法的措置など、延滞期間に応じてさまざまな措置が取られます。
滞納1ヶ月目から電話や郵便物での督促が始まります。
滞納2ヶ月目からは年5%の延滞金が発生、3ヶ月目になると個人信用情報機関に事故情報として登録され、ブラックリスト入りします。
ブラックリスト入りすると、新規クレジットカードの作成ができなかったり、各種ローンが組めなくなったりします。
完済から5年経過しなければブラックリストから名前が消えないので、長期返済となる奨学金は、数十年もローンが組めない不便な生活を送らなければなりません。
滞納4ヶ月目から、保証会社が代位弁済(肩代わり)し、保証会社側から一括返済を求められることがあります。
滞納9ヶ月以降になると、日本学生支援機構が業務委託している債権回収会社から一括返済を求められる場合があります。
裁判所を通して給料差し押さえなどの法的措置が取られるのもこの期間からになります。
奨学金を延滞し続けることで、信用情報に傷がつくだけでなく、延滞金の発生や、裁判所への訴訟費用を求められるなど、当初の返還予定総額より膨大な金額を返さなければいけなくなります。
返還が困難になった場合の対処法
年収が300万円以下の経済困難や、失業、病気など、奨学金の返済が困難になった場合は、以下の救済措置を講じることができます。
- 返還期限猶予制度:月々の返済を先延ばしにすることが可能。最長10年猶予してもらうこができる。
- 減額返還制度:月々の返済額を1/2か1/3に減らして返済できる。
これら制度を利用している間は利息が付かず、完済までの期間が長くなっても返済予定総額は変わりません。
返済できないからと延滞したり、督促を無視したりするのではなく、救済措置の利用を検討することが大切です。
詳しい申込み方法や審査基準については、日本学生支援機構のホームページよりご確認ください。
延滞率からみる奨学金の現状と今後
日本学生支援機構のような貸与型の奨学金は、卒業後は必ず就職でき、年収500~600万以上、年収は勤務年数に応じて上がり、失業のリスクもない。このような社会人生活を前提として設けられています。
しかし、現状は非正規雇用の拡大や残業時間の減少など、雇用環境が変化しているため、返済が難しく、奨学金の延滞や若者の自己破産が問題となっています。
奨学金をこれから借りる人は、本当に奨学金を借りなければいけないのか、大学別延滞率ランキングの結果や自己破産している若者を見て、借金をしてまで大学進学する必要があるのかを考えなければなりません。
学生本人が考えるのはもちろんですが、まだ社会に出たことのない子供からすれば物事の一部しか見えません。
奨学金を借りるかどうかは、親や教師など周りの大人のサポートが必要です。
すでに奨学金を借りている人、返済中の人は、長期間滞りなく返済し続けられるような経済力を身に着けなければなりません。
終身雇用制度は崩壊しており、これからは個人が稼ぐ力が重要になってきます。新しいスキルを身に着けたり、複数の収入源を得るために副業を始めるのも良いでしょう。
貸与型の奨学金は「学生本人の借金である」という自覚をしっかり持って、利用することが大切です。